スケール(弦長)の長短が弦楽器に与える影響
スケールのテンションへの影響
さてさて、今回は弦楽器のスケール(弦長)の違いが楽器に与える影響について解説をします。
「はて、スケールとは何ぞ?おらの村にはそんなもんないど?」
と言う方は先に前回の記事からご覧ください。
見るのがめんどくさい!という人向けにに平たく言っちゃうと、スケール=サドル~ナットの間の距離のことです。
(こんな一言で済むような話を引っ張りに引っ張って一つの記事にしていたことに自分で驚き)
最低限弦長分は長さを確保しないと弦楽器として成り立たないため、弦長によって弦楽器そのものの大きさもある程度決まってきます。
が、それはあまりにも当たり前な話なので抜きにして……
弦長が楽器に与える影響の中で最も大きなものは、弦のテンションです。
輪ゴムを思い浮かべてみてください。
当たり前ですが、輪ゴムは長くながーく引っ張れば引っ張る程、ピンときつく張りますよね。
あまり輪ゴムさんをいじめも可哀想なので、少し緩めてあげましょう。
すると輪ゴムの長さは短くなって、緩くなりますよね。
この輪ゴムの長さ=スケールの長短というイメージで理解して頂ければ分かりやすいと思います。
そして、そのハリの強さ=テンションの傾向も同じです。
輪ゴムが長い=スケールが長い / ピンと張る=テンションが高い
輪ゴムが短い=スケールが短い / ハリが緩い=テンションが低い
ということになるのです。
弦楽器のスケールの長短とテンションの相関関係について忘れちゃいそうな時は、輪ゴムを引っ張るのと同じだ、と思い出してください。
※ここではわかりやすさ優先で無視していますが、実際の楽器の場合、最終的には弦の太さや音程などの条件によっても変わります。
スケールが音色に与える影響
スケールが長ければハリが強くなり、短ければ弱くなる、というのは既に述べました。
これはこのまま音色にもあてはまります。
スケールが長くなればその分弦のテンションが高くなり、ハリやテンション感のある硬めの音になります。
逆にスケールが短ければ、ハリの弱い、柔らかい音になります。
音程への影響
色々な要素が絡まって総合的にではありますが、スケールの長さは音程の安定性にも影響します。
短いスケールの楽器よりも、長いスケールの楽器の方が音程は安定しやすい傾向にあります。
弦がよりピンと張っているので安定しやすいというテンションの影響の他にも、
・演奏の際にとれる指板上のスペースが広くなるため、押弦のポイント(※)のズレによる誤差の全体的な割合が小さくなる。
(※フレットのある楽器の場合はフレットの山の頂点の位置)
・演奏中の弦の伸びやちょっとしたペグの緩み。
などなど、様々な要因による音程の誤差がスケールが長ければ長い程音程全体に与える影響の割合としては小さくなる、というのもスケールが長い方が音程的に有利な要因になります。
余談ですが、フレットがある楽器はその構造上、音域全体で完璧な音程を出すことは不可能です。
なので、よほどのことがない限り音程のことは気にしない方が精神衛生上良いというのが管理人の持論ですが……
やはり気になる方もいらっしゃるようですので、そういった方はなるべくスケールの長い楽器をお探しになった方が良いでしょう。
中でもナイロンの弦を使う上、スケールも短いウクレレは、テンションも低くフレット間が詰まっているため特に音程が不安定になりがちです。
ウクレレはもうそういう楽器だと割り切れない方は、正直ウクレレは向かないかと思います。
演奏性への影響
もう一つ、スケールが楽器に与える影響として無視できないのが、演奏性への影響です。
弦のハリの強さが変われば、当然弦を押さえる時の感触が変わります。
スケールの長い楽器の方がテンションが高いので、弦を押さえる際により力が必要になり、固く感じるように。
逆に短いスケールの場合は比較的ハリが弱いので、押弦の際に柔らかく感じるでしょう。
実例でいえば、レスポール(弦長628mm)とストラトキャスター(弦長648mm)の両方に同じ太さの弦を張って同じチューニングにした場合、スケールの長いストラトキャスターの方が弦を押さえる際に硬く感じるでしょう。
また、弦長の長さが演奏性上与える影響は、弦のテンションだけではありません。
ギターやエレキベース・ウクレレなどフレットがある弦楽器の場合、弦長が短くなればその分フレットの間隔もせまくなります。
これも押弦が楽になるポイントですね。
基本的には、スケールが短い方が演奏しやすくなると言えるでしょう。
なので、楽器店では女性やまだ身体が成長しきっていないお子様、手の小さい方や力の弱い方は、なるべくスケールの短いモデルを勧めたりもします。
あ、別に男性はスケールの短い楽器はダメってわけじゃないですからね。
あくまで参考例であって、NIRVANAのカート・コバーンのように、あえて短いスケールの楽器を使うミュージシャンもいますし、自分が演奏しやすいもの、自分の求める音色を実現できる楽器がベストですから。
スケール(弦長)の長短が弦楽器に与える影響 まとめ
・スケールとは、弦楽器の弦の支点間(サドルとナット)の長さを指し、弦長とも言う。
・弦長が長くなると押弦の際に弦が硬く、短くなると柔らかく感じるようになる。
・弦長が長くなると硬めのハリのあるサウンドに、短くなるとハリが弱い柔らかいサウンドになる。
・より正確な音程を求める場合は、スケールが長い方が有利。
以上のように楽器のスケールは演奏性の違いや音色に多大なる影響を与えています。
しかし、スケールの長短によりそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらが絶対的に良くて、どちらが悪いということではありません。
音色の部分で言えばザクザク刻むようなプレイであればシャキっとハリがあった方がいいでしょうし、逆に柔らかく落ち着いた音や優しい音を出したいようであれば、スケールの長い楽器ではテンション感が高くなり音色が硬くなってしまうので向きません。
テンションがある方がいい音だと思っていたって、そもそも弾けなきゃ意味がないでしょうから、無理せず短いスケールの楽器を選ぶ、ということが必要になることもあるでしょう。
音程はスケールが長い方が有利とは言っても、スケールばかりでなく、製作の精度によっても大きく変わってしまいますし、先に言った通りフレットがある弦楽器の場合は理論上完璧な音程は出すことができないので、あまり気にしても仕方がありませんし。
スケールの長短によってメリット・デメリットがあるので、自分に合った楽器を選ぶ or 店員としてお客様の話を聞き、お客様に合った楽器を案内する際の指標の一つにしてください。
さて、鋭い方だとお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、スケールの長短による影響は弦の太さによる違いにも似通っている面もあります。
ただ、スケールの長短と弦の太さとで全然違うのは、スケールは楽器固有のもなので、後から変えることができないものだということ。
(ネックを付け替えてブリッジの位置もずらすという大工事でできないこともありませんが、それなら欲しいスケールの楽器を買った方が話が早い)
弦楽器選びにおいてはかなり大事な要素ですので、きちんと理解しておきましょう。
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