スルーネックタイプのエレキギター・ベースの構造と特徴

2016年5月5日

第三のネックジョイント方法 スルーネックタイプ

スルーネック構造のベース_Ariapro2_SB-1000_oak

ネックジョイントとしてはちょっと特殊な構造のスルーネック

スルーネックとは、セットネック、ボルトオンに次ぐ第三のボディーとネックのジョイント方法です。

ネックジョイントといってもちょっと特殊な部類で、セットネックやボルトオンに比べれば使われることの少ない構造。

しかしながらスルーネックならではのメリットもあり、多くの名楽器に採用され愛好家も多いジョイント手法でもあります。

今回は、このスルーネックタイプの構造と特徴について解説します。

スルーネックの構造の特徴

スルーネックはネック材そのものがボディーの中央を部分を構成する

スルーネックのギター・ベースの場合、ネック材がそのままボディー中央を形成している

スルーネックはネックそのものをボディーエンドの長さまでそのまま伸ばし、その左右にウィング材と呼ばれる材を貼り合わせてボディーを形成するちょっと特殊な構造です。

つまり、ボディーの中央はボディーというよりもネックそのものであり、ピックアップやブリッジなどエレキギター・ベースを構成するために必須のパーツもネック材の延長線上に配置されます。

こういった構造なのでそもそもジョイントという概念がありませんが、セットネックやボルトオンと並んでジョイント構造の一つとして数えられます。

ネック材がかなり長くなってしまうこともあり、他のジョイント方法に比べネックが反りやすい傾向があるため、ネック材の中に何枚か薄い板を挟み込みウエハース状にしたプライウッド材を使うのが一般的

その独特な外観を活かすため、木地が透けて見えるシースルー塗装を行うのが一般的です。

スルーネック構造のメリット

自由度の高いスルーネック構造のヒール

スルーネック構造はヒール加工の自由度が高く、ハイポジションでの演奏性に優れる

スルーネック構造の最大のメリットは、構造上ネックとボディー部分につなぎ目がないためヒール部分の加工の自由度が高く演奏性に優れる点でしょう。

セットネックやボルトオンとは違い接着面積やネジ留めをするためのスペースを必要としないため、ヒール部分をかなり大胆にカットすることが可能。

そのため、高音域を演奏するためのハイポジションにおいても弾きやすいようにヒールカット加工を施しやすいのです。

また弦の2つの支点となるブリッジとナット間の振動を妨げるネックジョイント部分が存在しません。

これが音質面で大きく寄与し、セットネック、ボルトオン、スルーネックの内ではスルーネック構造が最も長いサステインを得ることができるといわれています。

(もちろん、組み込みの精度など個体差にもよります)

また、ネックのプライウッドを含め、ネックとボディーの一体感のある独特の外観もスルーネック構造ならではのメリットと言えるでしょう。

スルーネック構造のデメリット

音質面や演奏性などさまざまなメリットのあるスルーネックですが、その割にはセットネックやボルトオンに比べ普及しないのには理由があります。

それは、生産性・メンテナンス性に優れないデメリットがあるため。

ボディーとネックを全く別々に製造できるボルトオンはもとより、セットネックも塗装前まではネックとボディーの接着までは別々に製造することが可能です。

しかし、スルーネックは最初から最後まで最低でもボディーエンドからネックエンドまでの長さは常にある状態で製造しなければいけません。

それだけの長物をぶつけたり傷つけたりしないように気を遣わなければならず、製造中ずっとかなりのスペースが必要となります。

しかも先述の通りネック材はプライウッドを使うため接着が必要&ウィング材の接着も必要で、接着の精度を高めるため面を整える手間もあり、何かと工数のかかる構造なのです。

これらの理由から製造コストが高くついてしまい、同じグレードのネットネックやボルトオン構造に比べ価格が高くなることが多い点がスルーネック最大のデメリットといえるでしょう。

そんなこともあってスルーネック構造のエレキギターやベースを製造しているメーカーも少なく、商品自体が少ない点もデメリットの一つ。

また、セットネック同様ネックの取り外しができないので、メンテナンス性も決して高いとは言えません。

スルーネック構造の特徴とメリット・デメリットまとめ

・ピックアップやブリッジなど通常ボディー上に配されるパーツを、ネック材の延長上に配置し、その左右にボディーとなる材を接着する特殊な構造

・ボディーを形成する左右の木材をウィング材と呼ぶ

・ボディーとネック部分の境目の形状の自由度が高く、大胆なヒールカットが可能で、ハイフレット側の演奏性の高さが最大のメリット

・構造的に3つのジョイント方法の中で最も長いサステインを期待できる

・製造初期の段階からネックエンド・ボディーエンドの長さのまま製作する必要があるため生産性に優れず、製造コストが高い

その構造上中が空洞のアコースティック楽器はスルーネックをとることができず、基本的にはソリッドボディーのギター・ベースに採用されます。

スルーネックを採用している代表例としてはアレンビックベースやAriaPro2のSBシリーズなどが挙げられ、どちらかといえばエレキギターよりもベースに用いられることの多いイメージがあります。

色々とメリットの多いスルーネックのギター・ベースですが、やはり生産性の問題もあってセットネックタイプ、デタッチャブルタイプに比べあまり一般的ではなく、特殊な部類ともいえるでしょう。

しかし、少ないとはいえ確実にギター・ベースの第三のジョイント方法として認知されています。

ギター・ベースを3分する分類の一つとして、ぜひ憶えておきましょう。

セットネックタイプ・デタッチャブルタイプについては前回解説しておりますので、下記関連記事よりご覧ください。