ラッカー塗装の特徴と注意点

2015年3月10日

ラッカー塗装の特徴

ラッカー塗装

深味がある美しい艶と風格が魅力的なラッカー塗装

今回は高級なギター・ベース・ウクレレなど弦楽器よく使われるラッカー塗装について解説します。

実はラッカー塗装にはいくつか種類があり、ギター・ベースの塗装に主に使われるラッカーの正式名称はニトロセルラッカーです。

楽器業界ではラッカー塗装といえばニトロセルラッカーで浸透しているのであまり厳密に考える必要はありませんが、ニトロセルラッカーという単語は憶えておきましょう。

豆知識ですが、例えば私達日本人にも馴染みの深い漆もラッカーの一種です。
(実際、モモセギターさんが漆塗りのギターを造っています。か、かゆい)

ニトロセルロースラッカーの塗装の性質

ニトロセルラッカー(以下ラッカー)塗装は、基材のラッカーをシンナーなど溶剤で溶かし粘度を整え、スプレーガンで吹き付ける塗装方法が一般的です。

吹き付けられた中からシンナーの揮発によって残ったラッカーが硬化していき、塗膜を形成します。

が、シンナーの揮発が非常にゆっくり。一気に吹き付けて厚みを出すと、塗膜の奥のシンナーが抜けきれず硬化不良を起こしやすい特性があります。

なので薄く吹いてある程度乾燥・硬化させ、また薄く吹いて硬化させての繰り返し、目的の厚みを形成します。

手間と時間が非常にかかる=コストがかかるため今では高級なギター・ベースにしか使われない塗装方法です。

完成後も硬化が進み、経年変化する

ラッカー塗装は基本的に溶剤の揮発による仕組みで塗膜を形成しているため、楽器が完成した段階でも塗膜は完全に硬化していません。

実は楽器が完成した後もゆっくりとシンナーが抜け続けて徐々に硬化が進んでいるのです。

そのため、ラッカー塗装の楽器は長い年月をかけて徐々に性質が変化します。

実際、ラッカー塗装のギター・ベースの塗膜をキレイにまったいらに磨いても、年月をへるごとに木目に合わせた細かい凹凸がみられるようになります。いわゆるラッカーのやせです。

またはじめは塗膜に柔軟性があり多少傷つきやすい面もありますが、その分衝撃には強く打痕は残ってもパリッとは割れにくい性質。

時間が経って硬化が進むと反対に硬度が増して傷に強くなり、その反面柔軟性が失われ衝撃に弱くなります。

硬化が進むと最終的にはクラック現象と呼ばれるひび割れを起こします。

また、ラッカーは光に焼けて色が飴色っぽく濃くなっていく性質があります。

これらやせ / クラック / 色焼けが経年変化と呼ばれる現象。

ぷにぷに柔らかいもちもち肌だった赤ちゃんが、歳を取るにつれてカサカサと乾いた肌になっていく……人間の老化現象と似たようなもんだと思えばわかりやすいかもしれません。

ただ、楽器の経年変化はビンテージらしい風格が出るため、人間の老化現象と違いむしろ好意的に捉えられる傾向があります。

管理人もビンテージギターのようにカッコよく歳をとりたいものです。すでにカサカサだけど。

ラッカー塗装の取扱い方法の注意点

ラッカー塗装の経年変化を人間の肌に例えましたが、ぜひ、かっこいいおじいちゃんになってもらえるよう色々と気を遣ってあげたいもの。

しかしラッカー塗装は非常にデリケート

特に気をつけなければならないのはゴム系の素材アセトンなどの溶剤です。

ギタースタンドに注意!

特にゴムはギタースタンドにもよく使われているので要注意です。

演奏の合間に置くくらいなら問題ありませんが、保管に使う際は必ず楽器がゴムの部分をタオルやクロスなど布で覆ってからつかいましょう。

どれくらいの時間で反応するかは塗膜の状況や環境によっても異なりますが、管理人自身の経験では、夕方にギターハンガーにかけておいたところ、次の日の昼頃にはハンガーに触れていたヘッド根本の部分が若干溶けて変質していました。

条件的には高温・多湿な環境でギターがまだ新しいほど反応する危険が高い傾向があります。

アセトン等の溶剤注意!

また、ラッカーはシンナーやアセトンなどの溶剤にも滅法弱いマニキュアの除光液の主成分はアセトンです。

アセトンは水をも溶せるよくわからないスゴさの溶剤なので、硬化しきっていないラッカーなんてイチコロ。塗装用品を洗う時に使われているくらい。面白い程キレイに塗料が落ちます。手の水分とともに。

ラッカー塗装にアセトンをかけるのは立派な虐待行為です。

(アセトンは溶剤として本当に強いので、ラッカー以外の塗装にくわえプラスチックなどいろいろな素材にも当てはまることですけど)

マニキュア好きな女性や爪に美学を持つマニキュア男子のみなさん、愛機の周りで除光液は厳禁ですよ。

除光液(アセトン)のほかにもライターのZippoオイルやキャンプでよく使われるホワイトガソリンなんかもラッカーには非常に危険です。

そのほか、ラッカーにはさまざまな素材が反応する危険があります。長時間練習していたらTシャツのプリントがギターの裏にくっついていた、なんて話も。目立った影響が出ず気づかないこともありますけど、実は人汗にも反応します。

ラッカーは塗膜が新しい程不安定で反応しやすく、硬化が進めば進むほどこういったものに反応しにくくはなりますが、気をつけてあげるに越したことはありません。

大人になるにつれて色々なことに鈍くなっていくのはラッカーも人間も一緒ですね(遠い目)。

まとめ

  • ラッカー塗装は製造コストがかかるため高級な楽器でしか使われないが、音響面に優れた塗装法。
  • 音響面に秀でている反面、デリケートなため扱いが難しい。特にゴムなど特定の素材に反応するため注意が必要。
  • ラッカーにはいくつか種類があり、ギター・ベースで使われるのは主にニトロセルラッカー。

近年では高級なギター・ベースでも極薄のポリウレタン塗装を採用したモデルも増えていますし、ラッカー塗装とポリ塗装をパッと見で見分けるのは難しいのですが、長く大切に使っていくためにも自身の楽器がポリ塗装かラッカー塗装かは把握しておきましょう。

「 せっかく高いギターを買ったのに、スタンドに置いただけで塗装が…… 」なんてあるあるな話です。

なぜラッカー塗装は音がいいとされるかについて詳しくは次回説明します。下記関連記事から詳しくご覧いただけますので、ぜひ併せてお読みになってください。