超高級ギター御用達 シェラック塗装
シェラック塗装
フレーク状のシェラック
今回は超高級ギター御用達のシェラック塗装についてご紹介します。
シェラック塗装とは、天然素材を塗料として手で塗るという伝統的な塗装方法です。セラック塗装とも呼ばれます。
この天然素材というのが、ラックカイガラムシの分泌液を使ったもの。
(ちなみに、ラッカー塗装という呼び名の由来はこのラックカイガラムシ。豆知識)
虫の分泌液というと抵抗感を感じる方もいらっしゃるかと思いますが、人体には無害でお菓子のコーティングに使われる程安全な素材です。
バイオリンやチェロなどの塗装として使われることが多いようなので、ギター・ベースなどの軽音楽系の楽器よりもオケ系の弦楽器の経験者の方の方がよくご存知かもしれません。
超高級な塗装方法で、100万円を超えるようなクラシックギターやフォークギターで時々見かけるくらいで、かなりレアです。
サックスなどのタンポの接着剤として使われているので、バンドマンよりもむしろ管楽器の経験者のみなさんに馴染みが深いかもしれません。
シェラックの塗装方法
シェラック塗装の製法ですが、まず固形になっているシェラックをエタノールなどの溶剤で溶かして塗料にします。
そのシェラックの塗料をてるてる坊主のような形にしたタンポに染み込ませて、ギターに薄く薄く塗り込んでいく手塗りが一般的です。
さて、手塗りで塗り込むと言うと『 ニスくらい誰でも塗れるでしょ 』と思われるかもしれません。
が、このシェラック塗装、そんなに甘くはありません。
ラッカー塗装など他の塗料でも塗り重ねるのが基本ではありますが……
シェラック塗装の場合、仕上げ方によっては数百回塗り込む場合もあります。
一回で塗り重ねられる厚みがかなり薄いため、とにかく回数をこなさなければならないのです。
最初は木の導管を埋めつつ塗り込んで、乾燥した上から更に重ねて塗り込んで、また乾燥したら重ねて……ひたすらその繰り返しです。
しかも一度塗り込んで重ねるまでの乾燥までに時間がかかるため、ギターの塗装にシェラックを使う場合塗装だけで数か月はかかります。
シェラック塗装の場合は、塗装だけで塗装を除いた木工や仕上げなど他のすべてよりも時間がかかる、ということもザラにあるようです。
(通常のギターの製作期間はハンドメイドのものでも4か月程度が一般的)
とにかく手間と時間がかかる塗装方法のため、オーダーメイドや超高級なクラシックギターなどよほど高いギターでもない限り使われることはあまりありません。
シェラック塗装の特徴
シェラック塗装の最大の特徴は塗膜の薄さです。
最終的な仕上がりの厚みは20~30ミクロン程度と言われております。
1ミクロン=0.001ミリなので、シェラックの塗膜の厚みは0.02ミリ程度ということですね。
とか言われてもピンと来ませんよね。
身近にコピー用紙があったら、一枚摘まんでみて下さい。
一般的なコピー用紙の厚みが0.1ミリ程度です。
つまり、シェラック塗装の厚みはコピー用紙の5分の1程度ということになります。
ちなみに、一般的なギターやベースなどに使われるポリウレタン塗装の厚みが大体100ミクロン~300ミクロン程度が多いので、シェラック塗膜の厚みはポリ塗装のおよそ10分の1程度ということになります。
ラッカー塗装など他の塗装の記事でも言ってきましたが、楽器の塗装は薄くければ薄い程楽器の鳴りを阻害しないため、音響的に有利になります。
シェラックは極薄塗装の究極形とも言えるでしょう。
シェラック塗装の取り扱い注意点
前述の通りシェラック塗装は他の塗装に比べ圧倒的に薄く、音響的には有利ですが、その代わりかなりデリケートなため取扱いが難しいのが難点です。
ラッカー塗装の『 薄くて鳴りはいいけどデリケート 』という特徴を更に極端にしたようなイメージです。
ラッカーでも色々と反応して大変ですが、シェラックの場合は汗にすら敏感に反応して溶けてしまうことがあります。
暑い時期やお風呂上りには弾くことすらためらわれるレベルのデリケートさです。
塗膜を良い状態で保つには、演奏後はクロスなどでキレイにしてやることが大切。
また、その薄さゆえに耐久性が低く、打痕や傷がつきやすい点も注意です。
ちょっと爪が当たっただけで跡になってしまうこともあるので、アクセサリーをつけて演奏なんてもってのほか。
他にも色々な成分に反応しやすく、場合によってはケースにしまってあるだけで
演奏時も保管時も細心の注意が必要です。
シェラック塗装まとめ
・シェラック塗装はすごく手間と時間のかかる、天然素材による超高級塗装。
・塗膜が極端に薄く音質面では最高の塗装だが、とにかくデリケートで扱いには注意が必要。
シェラック塗装を簡潔に表すなら
『 極端に薄い塗膜で鳴りがよく、極端にデリケートな超高級な塗装 』といったところでしょうか。
先ほども使った言い回しですが、まさしくラッカー塗装を更に極端にしたような性質が特徴です。
楽器店に勤めていてもなかなかお目にかかれるようなものではありませんが、シェラック塗装が施されている楽器というのはそれだけ高級というようなもので、概して素晴らしく良い楽器に仕上がっています。
ただし、シェラックの塗膜はとにかくデリケートですので、触る時は細心の注意を払いましょう。
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