アコギ(フォークギター・クラシックギター)のブレーシングの種類と特徴・音の違い

色々あるアコビのブレーシング(力木)の種類

ギター工房_ネック接着前のアコギ

奥の深いアコギのブレーシングの世界

鉄弦のフォークギター、ナイロン弦のクラシックギターなど箱物楽器にとって、ボディートップ板がサウンドに大きな影響を与えることは周知の事実。

しかし、実はトップ板の裏に補強として張られたブレーシングの形状・スタイルによってもサウンドが大きく変わります。

今回はこれらブレーシングの種類について解説します。

Xブレーシング

Xブレーシングイラスト

X字が印象的なXブレーシング

X字のブレース(力木)が特徴的なブレーシングで、今現在フォークギターで最も一般的に使われている力木のパターンです。

ダイナミックな鳴りとサウンドが特徴

歴史は意外と古く、C.F.Martin氏が1840年代から開発を始め、1850年頃にはほぼ今と同じ形で完成しています。

元々このX字の交差点はホール寄りだったのですが、第2次世界大戦の少し前頃からより大きな音量を得るため、太い弦が流行。

このテンションに耐えるため、最も力が加わるブリッジの下の方へX字を3/4インチほど位置をずらしています。

これによって鉄弦の強いテンションにも耐えうるだけの剛性を得ることができました。

(とはいっても油断していると歪みや浮きは出てしまいますが)

Xブレーシングの派生形で、ブリッジの下だけでなくボディーエンド側にもX字の力木をおいてガチガチに固めたダブルXブレーシングなるパターンを採用しているモデルもあります。

(主にGibsonなど)

スキャロップドブレーシング

スキャロップドブレーシングは力木の配置ではなく、ブレーシングスを削り込んで音質を変える工法・仕様を指します。

力木そのものを削り込むことで質量が減る分、弦の振動を邪魔せずより全体的に鳴りやすくなる音響的なメリットがあります。

ただし、トップ板の補強であるブレーシングを削ることで弦のテンションに対する抵抗力が弱まり、ボディーの剛性が弱まるデメリットにもつながっています。

実際Martinも戦前D-28などのモデルでスキャロップドブレーシングを採用していましたが、より大きな音量を求めてどんどん太い弦が張られる流行に強度の不安が出たため廃止された経緯があります。

(今ではMartin社内でもHD-28など当時の仕様を復刻したモデルに搭載されています)

そのためボディートップの歪みやブリッジの浮きにはより注意が必要。

太い弦を張ったり弦を張りっぱなしでそのまま放置するのはかなりリスキーなので、十分注意しましょう。

時折自身でホールから手を突っ込んでブレーシングを削るチャレンジャーな方を時折見かけますが、強度が弱まったりブレースをはがしてしまうなどの事故につながるので、下手に触らず工房のプロに頼むことをオススメします。

フォワードシフテッドブレーシング

フォワードシフテッドブレーシングはXブレーシングの仕様の一つで、力木のXの字が交わる位置をブリッジの下からホール側へ少しずらしてある仕様です。

(正確に言えばブリッジ側に移されたXブレーシングの交差点を元の位置に戻した復刻仕様)

HD-28VなどMartin社の一部モデルに採用されています。

通常の配置に比べレスポンスよく音がぽんぽん前に出てきてよく鳴るメリットがあります。

スキャロップドブレーシングと同じ理屈で、X字力木がブリッジから離れることで弦とボディーの振動を妨げないため。

しかし、Xブレーシングの交差点がトップ板でも最も負荷がかかるブリッジの下からずれているためトップ板の弦のテンションに対する強度が若干弱いデメリットがあります。

そのためスタンダードシリーズに対し比較的トップの浮きやブリッジのはがれなどの症状が起こる可能性が高いのが難点。

鳴りはよくなるけれど強度が弱くなる。

スキャロッブドブレイシングと事情が似ていますね。

HD-28Vのようにフォワードシフテッドブレイシングでかつスキャロップドの場合、通常のアコギとはボディーの剛性が段違い。

フォワードシフテッドスキャロップドブレイシングなんて舌噛みそうな仕様のギターをお持ちの方・ご検討の方は、弦の太さや張りっぱなしには細心の注意が必要なことを知っておきましょう。

ファンブレーシング

アコギ_ファンブレーシングイラスト

扇状の配置が特徴的なファンブレーシング

古くからクラシックギターで使われてきた伝統的なブレーシング方法で、ブレーシングの形状が扇状になっている点が特徴的

アントニオ・デ・トーレス氏によって完成されたクラシックギターのスタイルで、Xブレーシングが普及している現代においてはフォークギターで使われることはあまりありません。

しかし、今でもクラシックギターではファンブレーシングが主流として多く使われています。

粒立ちがよく豊かな広がりを感じる音色で、クセがなく色々なジャンルで広く使える汎用性が特徴です。

ラティスブレーシング

ラティスブレーシングイラスト

ラティスブレーシング

ラティスとは格子を意味する英語で、ラティスブレーシングは格子状に力木が配置されたブレーシングです。

クラシックギター製作者であるグレック・スモールマン氏が考案したスタイルで基本的にクラシックギターでしか使用されません。

音の立ち上がりが早く音量があるのが音質的な特徴で、ファンブレーシングに比べ強度的にも優れています。

ただし、ギター本体が重くなる、音が硬くなるなどのデメリットも。

そもそもこのラティスブレーシングは伝統的なファンブレーシング構造では限界があったクラシックギターの音量を底上げするために考案された経緯があります。

そのためラティスブレーシングが施されている、通称ラティススタイルのギターき全体的に通常のギターとは少々違った仕様。

音量を稼ぐためトップ板をかなり薄くし、その補強のために格子状のブレーシングを張り巡らせているのです。

なので、音響的な部分はラティスブレーシングそのものの特徴というよりはラティススタイル全体の特徴です。

ラティススタイルのギターはボディーバックが丸みを帯びているのも特徴です。

アコギのブレーシングの種類と特徴・音の違い まとめ

  • XブレーシングはC.F.Martin社が開発したブレーシングで、鉄弦のフォークギターでは最もスタンダード。
  • 派生仕様としてスキャロップド仕様フォワードシフテッド仕様があり、音の鳴りをよくしてくれるが、ボディートップの剛性が弱くなるデメリットもある。
  • クラシックギターでは伝統的なファンブレーシングが最もスタンダード。
  • 極薄のトップ版に格子状の力木を張り巡らせたラティスブレーシングもクラシックギターで使われている。

ブレーシングただ強度を決める補強なだけでなく、構造上サウンドにも非常に大きな影響を与えるかなり大事なファクター。

基本形はある程度決まっているとはいえ、各社個性を出すためしのぎを削っている奥深い世界。

ぜひ基本を押さえておきましょう。